注目される脳内セロトニン
座禅を組むお坊さんが、荒行に耐え、高い平常心を保ち、元気で長生きなのは、脳内セロトニンが極めて高い活性化状態にあるからだ、ということをつきとめた研究報告があります。セロトニンは、これまでうつ病や神経症など精神科領域の、つまり精神的な病気とされていた疾病が、脳内のセロトニンに働きかける薬剤で治療できるようになったことで、注目される様になりました。
ストレスの多い現代社会に、自律神経失調症あたりの病名をもらって苦しむ人にとっては、ストレスから逃れることも出来ず、それは自分の心が弱いせい、と更に暗く落ち込んでいくしかなかった症状が、実は脳内セロトニンが不足して心が風邪をひいたみたいなもの、と考えられたら、それは本当に大きな救いです。
セロトニン神経を上手に増強
ですが、やはり薬物を乱用するのは考え物です。セロトニンはもともと体内に存在しているものですから、うまく刺激すればいいはずです。セロトニンは情緒や感情を支配する様々な脳内物質のコントローラー。オーケストラで言えば指揮者です。
例えば、ドーパミンは食欲、性欲、興奮、喜び、しかし暴走に関与する物質です。ノルアドレナリンは恐れや驚きを起こし、生命の危機状態に対応しますが、多すぎれば不安、パニックを誘発し、痛みに対しても敏感になり過ぎます。
セロトニンはこれらを統括し、自律神経でいえば交感神経に適度な緊張を与え、けれど副交感神経優位ではないので眠くはならない、安定した平常心で意欲的な元気を作り出すという、凄い神経なのです。このセロトニン神経の働きを増強する方法として座禅式呼吸、咀嚼、ウオーキング、ジョギング、自転車漕ぎ、などのリズム運動が有効であることがわかりました。
前回書いた吐く息中心のゆっくり腹式呼吸を座禅では線香1本分。これはかなり厳しいリズム運動ですが、実験では、尿中セロトニンが大変増加したそうです。これを継続するお坊さんは背筋が伸びて外見すっきり顔もひきしまっています。これも、セロトニンが姿勢筋や抗重力筋の筋力を増幅する作用があるためだと説明出来ます。
日常の呼吸を振り返ってみる
最近の子供たちの生活習慣を見直してみると、例えばファミコンしている時の呼吸は、していないのではないかと思えるほど、「息」を詰めて浅く早い呼吸です。かみ合わせが悪く、軟食で充分な咀嚼もしない。これではセロトニン神経は弱るばかり。そのためキレル、元気がない、姿勢も悪い、そして自律神経も整わない、という悪循環に陥ってしまいます。大人はうまく「息」を抜くことが出来ない社会の中で、お互い、「息」が合う、「阿吽の呼吸」などという快適な人間関係が築けないまま、更にストレスを作っているのかもしれません。短く早い呼吸ではお互いそのテンポを合わせるのは難しい。でも二人三脚のように、ゆっくりリズミカルになら、うまく合わせられるでしょう。「息」の字つく言葉を考えると、昔の人はその深い意味合いをきっと知っていたのだろうと感動します。更に脳の働きを知ってみれば、お釈迦様の境地に一歩近づくこともできそうですね。