まばゆいばかりの新緑の青葉が雨にぬれている。
自然の災害の脅威にさらされて3カ月、つらく哀しい景色ばかりが心をふさいできたけれど、自然は変わらずその優しさや美しさを提供してくれている。
金華山のふもとに生まれ育ったわたしには、山の緑が当たり前の風景で、今も自宅とオフィスは、その豊かな環境の中、癒しの空間だとつくづく思う。鳥のさえずりと、木々の間を抜けてきた風の匂いで目覚めることに始まり、台所、リビングの窓は山に向かって大きく広がっているので、絵画の1つも不要な空間である。
2Fのオフィスの5台の診療台は、すべて窓から山を臨む位置に設置してあるため、一日中、自然に豊かな緑と対面することになる。連続緊張の中、視線を上げれば、風にそよぐ緑の葉が深く息づくさまにほっとする。患者さんたちも同様で、診療台を起こしてさしあげておくと、緑はいいですねーと、顔がほころぶ。いや~な歯科治療の痛みを一時忘れて下さる瞬間だと思いたい。
町の中で、こんなにも山に隣接して民家があるのは珍しいようであるが、これはうちの大きな財産である。歯科医になって35年、ひたすら駆け続けてきた気がするが、恥ずかしながら最近還暦間近になって、その価値と大きさに改めて気づくゆとりが出てきたようだ。
何十年も貯めて積まれた雑多なものが(私自身が積み上げたのだが)視線を邪魔することが許せなくて(むろん私自身に対してである)、ひたすら片づけて掃除して、開け放たれた空間を山の緑でいっぱいにするべく、がんばっている。
これがわたしの還暦を迎える準備、いわば心の窓磨き。美しい景色もクリアに入ってこない加齢の変化に(白内障の兆し?かな?)、ささやかに抵抗したいと思うこの頃である。